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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

アーノルド・キアリ奇形(2)


アーノルド・キアリ奇形がとても珍しい病気であること、しかし他の疾患と合併して時に理解し難い症状を呈する病態であること、それゆえに珍しいからと言って決して忘れてはならない病気であること、について前回は述べました。実は私自身、まさかアーノルド・キアリとは疑っても見なかったために、診断に苦労した経験は2例目でした。

20年前、私の当時出張していた病院の耳鼻科に、めまいを訴えて55歳の男性が受診しました。

数年前より頭重感と目の焦点の合わない感覚があり、自立神経失調症状もあったため、脳動脈硬化症として治療を受けていました。しかし、軽快傾向はみられず、内科から耳鼻科紹介となったのです。

耳鼻科的には、前回触れた垂直性眼振という小脳・脳幹の病変を示唆する所見が得られ、加えて精神的にはうつ(デプレッション)の傾向がありました。

この方には耳鼻科から抗うつ剤が投与されると同時に、平行してCTが撮影されました。するとその結果では、第四脳室の拡大や小脳の萎縮を思わせる画像が得られました。

これらのCTの結果ならびに自律神経失調症状からこの方は、オリーブ・橋・小脳萎縮症(OPCA)の疑いとして、大学病院の神経内科に入院となりました。OPCAとは、脳の一部の変性のために、小脳・脳幹症状と自律神経失調症状の出現する病態です。しかしOPCAを目的として実施されたTRH筋注療法が無効で、むしろ抗うつ剤が良く効いたため再度精査が行われました。

その結果この方は、後下小脳動脈(PICA)が下に大きくずれていることが判りました。つまり小脳は萎縮していたのではなく、ずれて下に位置していたのです。CTでみられた脳室の拡大や小脳の萎縮のような画像は、小脳が下に引っ張られていたためにそのような像を呈していただけでした。

これはすなわち、アーノルド・キアリ奇形です。この方の症状は、小脳・脳幹症状が奇形による圧迫で生じたものであり、自律神経失調症状はうつによるものであることが、後から確認されました。

奇形とうつの合併が、この方の病像をややこしくしており、診断に手間取った理由でした。

強烈な臨床経験として忘れられない思い出ですが、私は前車の轍を踏んだのではないでしょうか?
 
河北新報 週間るぽ 北部版 第149号 1998年12月14日
関連リンク: みみ、はな、のどの変なとき (エピソード11参照)
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